この事例の依頼主
40代 女性
相談前の状況
福岡県朝倉市在住の40代家事従事者のNさん(女性)は,信号機により交通整理の行われている丁字路交差点において,対面信号機の青色表示に従って普通乗用自動車で同交差点に進入したところ,対面信号機の赤色表示を看過して同交差点に進入した普通乗用自動車と衝突し,外傷性頚部症候群,腰椎捻挫,外傷性左坐骨神経痛等の傷害を負い,治療を継続しましたが,左上肢痛・痺れ,腰痛等の障害を残しました。
解決への流れ
本件事案における主な争点は,後遺障害逸失利益でした。後遺障害逸失利益について,加害者側は,示談交渉時と同様,「労働能力喪失期間は5年とすべき」旨主張しましたが,当事務所の立証活動により,嘱託弁護士は,「本件後遺障害の内容・程度に鑑み,労働能力喪失期間を10年とするのが相当」とする斡旋を行いました。以上の結果,加害者側が,Nさんに対し,既払金のほか約615万円を支払うとの内容で示談が成立し,結果として,大幅増額を実現することができました。
被害者の既往疾患として頸椎椎間板・腰椎椎間板ヘルニア,胸郭出口症候群,手根管症候群,後縦靭帯骨化症(OPLL),脊柱管狭窄症などが存在している場合には,症状の事故起因性が争われることが多いです。もっとも,事故以前にはそれらの既往疾患による症状はなく,事故により神経症状が出現したと認められる場合には後遺障害が認定されます。これらについては画像所見が得られていることが多く12級の認定がされやすいですが,既往症の存在を理由に素因減額がなされることも多いといえます。そして,本件事案はまさにその典型で,訴訟手続きにより,かえって賠償金が下がることもあり得ましたので,減額なく解決できて安堵しました。労働能力喪失期間については,外傷性頚部症候群の場合には一般的に制限され,12級で10年程度,14級で5年程度とされる例が多くみられます。これは,外傷性頚部症候群などの神経障害は,この程度の時が経過すれば治癒していくことが医学的に一般的な知見であることに基づいているものであり,本件事案において,嘱託弁護士が労働能力喪失期間を10年としたことにはやむを得ないものでした(もっとも,当初の5年から10年に伸長することができました。)。以上のとおり,紛争解決の手段として,必ずしも訴訟手続が最善であるとは限りませんので,事案に即した適切な解決ができるよう,弁護士に相談して頂きたいと思います。